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次の日、今は学校が終わり、夜9時までのコンビニアルバイトの最中。 学校でもずっとあの神姫について考えていた。なにかしてあげられないのかなと思っているが、良い案がなかなか出ない。 そんな上の空の状態だから、アルバイトの最中でも度々ミスをしてしまうし。 「……ハァ」 「どうした、青少年。溜息なんてついて、今日は覇気がないぞ。覇気が」 「あ、すみません。君島さん」 今日同じシフトの先輩、君島さんにおもわず頭を下げる。人が少ない頃を見て話しかけてくれたみたいだ。 「いや、なに。いつも生真面目に仕事しているキミがミス連発なんて珍しいのでね」 「……ちょっと、色々ありまして、悩んでいて集中できないんですよ」 「ほう。恋かね?」 「え!……いやいや違いますって」 何を言い出すんだ、この人は。アルバイトの先輩で本名は君島 縁さん。 長く伸びた髪をぞんざいに後ろでまとめていて厳かな口調が特徴。そしてなぜか僕をよくからかってくる。 「なんだつまらないな。キミくらいの年代ならそういうのが相場なんだがね」 「なんで恋愛関連に話がいくんですか。……あ、でも、一応悩んでいることは女の子なのかな。武装神姫のことなんですけど」 「あの戦わせたり、その他の用途に仕事のサポートもできるという噂の機械人形か。はたまた恋人にしたりできるとか。……ハッ! まさか、相手は神姫か!? お姉さんは許さんぞ」 「違いますって! ―――あ、いらっしゃいませ!」 お客さんが来たので、すぐさま商品をうつ。君島さんもいつの間にか商品の整理に戻っている。まったく、あの人は。 頃合いを見て、君島さんにまた話しかける。 「お客さんに見られたじゃないですか」 「クク、取り乱すキミが面白くてな。ちょっとからかってしまった、すまないな。 ……でだ、武装神姫について何を悩んでいるんだね。話してみ。ほらほら」 「……ハァ。わかりました」 二度目の溜息をついて、これまで起きたことを君島さんに話した。 「ほうほう。塞ぎ切った神姫を拾ってしまって、どう接したらいいかわからないと」 「そうです」 君島さんは真面目に取り合ってくれる人ではあるのだけど。なんかな、うまく表現できない。 「私は神姫を持っていないが、メディア情報は度々拾うな。例えば『神姫には心がある』という話が多くある」 「……心ですか」 喜怒哀楽の感情がある。そんな神姫たちであれば、そう思う人たちもいるのだろう。ミスズとか他の神姫を見てて僕もそう思う。 「所謂、AIなんだが。これには様々な議論がされている。今でも決着はついてはいない。ただの自立思考型の人形だろとかな、偉い奴とかがそういうことをのたまうのは世の常だ。 まぁ、そんなことが上では起きている訳だ。……少し反れたが、では、キミのように神姫を拾った場合はどうしたらいいか」 「……どうすれば?」 「人間の女と考えて行動しろ」 「はい?」 「人形とか、野良神姫とか、考えるな。そいつは人間の女の子だ。家出した女の子だ。そう考えて動け。で、仲良くなればいい」 「簡単に言いますけど、塞ぎ込んでいるって話しましたよね」 「一度でくじけるな。弱音を吐くな。何回でもトライだ。さすれば、道は開かれん」 勢いでそう君島さんは言い放った。 なんだか、そう思うとやれる気がしてきた。 僕は単純なんだろうか。それとも君島さんの話術なんだろうか。 「そして、いつのまにか長倉君とその神姫はめくるめく関係に。うわ、面白いし笑えるな」 ダメだ。こんな大人になったらダメだ。 ---- そして。 帰ってきて、僕の部屋に今も謎の神姫がいる。 あれからずっとクレイドルの中にいたみたいで、いまだに何があったのかは話してくれない。これじゃ君島さんの案、強引に会話で仲良くなろう作戦もままならない。 一応、僕も武装神姫をいつかは欲しいなと思ってはいたけどなあ、これを人間の女の子と考えるのか。無理でしょうに。 僕の家庭は母親は僕が幼い頃に病気でなくなり、父親は飛行機の機長をやっていていつも飛び回っているので、家を空けるばかり。世話をしてくれていた母方のおばあちゃんもいた。だけど、中学二年の時に亡くなってしまった。 以来僕はこの家に一人暮らしをしている。父親に心配をかけまいと家事などは一通り覚えて、立派にやっていることを伝えているし、高校生になってからはアルバイトもしていて、生活は充実している。でも、やっぱり一人が寂しい時があるので、淳平とミスズみたいな関係を作れる神姫が欲しかった。 この子を人間の女の子と考えると、見知らぬ所でずっと塞ぎ込んでいて寂しくはないのだろうかと思えてきた。 「一人ぼっちは寂しいと思うけどな」 考えていたことがふと口からでてしまった。 すると。 「………あの」 見ると神姫の子は顔を上げてくれていた。 「!……初めて話しかけてくれたね。どうしたの?」 「えと、その、お話を聞いてもらってもいいでしょうか」 「うん、いいよ」 どういう心境の変化なのかはわからないけど、心を開いてくれた。ただそれだけが嬉しかった。 僕は座布団を用意して腰かける。そして神姫は話し始めてくれた。 「私のマスターはバトルで勝つことが好きでした。自分で考えた武装、自分で考えた戦略、それで戦わせている神姫が勝つととても嬉しそうでした。私の前には、ストラーフのお姉ちゃんがいて、マスターとお姉ちゃんが私を買ってくれて、戦っている姿も見せてくれました。だけど私は……その……武装神姫としては欠陥品でした」 「どうして? 悪い所はないみたいだけど」 「心というか、CSCと言いますか。……私は戦うことを苦手と感じるんです」 「……」 それは戦えなくては“武装”神姫足りえないということを意味するのだろうか。 「訓練とかは普通にできるんですよ。でもバトルだと傷つけるのも、傷つけられるのも嫌に思えてしまって、フィールドに立たされてもまともに戦えなくて、結果マスターにもお姉ちゃんにも見限られて……いられなくて……それで……」 「わかった。もういいよ」 「ぐす……うぅ」 会話を止めると優しく声をかける。泣き出してきてしまったので、それを僕は指で拭う。 あの日にそんなことがあったのか。一人で外をたくさん歩いて、バッテリーが切れる寸前まで猫に追いかけられて、大変な苦労をしたんだな。 「戻れないんだね、居場所には」 「……はい」 「それじゃあさ、よかったらだけど、ここにいてよ。僕は神姫バトルとか興味ないし、話し相手……いや、いっそのこと僕のになってくれないかな」 「螢斗さんのにですか?」 「うん」 強引でしかも傍から見たらプロポーズに聞こえるが、そうではなくて、ただ単に一緒に生活するという事としてのお願いだ。 「そうですね。螢斗さんはお優しい方みたいですし、……喜んで」 「そうか。やった」 こうして、この僕の家に一つの神姫が住むことになった。
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そのに「回顧録・一」 僕がのティキを所有する事になってから、日はまだ浅い。 今僕と共にある武装神姫――ティキは、元々亡父の物。言わば形見だ。 つまり僕は自分の神姫と付き合っていく上で、ティキを一から育てると言うメリットを放棄させられたワケだ。 ……なんて言うか、つまりはそういう事。どんな原理か原因かはわからないけど、あの時ティキは『死ななかった』。 だから手探りで半ば完成されたティキというパーソナリティーを理解していくと言うデメリットだけを負わされた事にもなる。 そういえば、登録の件でメーカーに連絡したときも大変だったっけ。 あの時僕はただ泣く事しか出来なかった。 泣く事で、頭と心を支配していた悲しみを埋める事しか出来なかった。 だから、すぐ側で泣いているその小さな存在に気付いて、とても驚いた。 そこには動かないはずの神姫が、ティキが居たんだから。 「な……なんで?」 僕のその言葉はティキが動いている事に対する問いかけだったけど。 「ティキが悲しいのと同じくらい、もしかしたらそれ以上に、雪那さんも悲しいはずなのですよぉ~」 ティキからの答えはそんな次元を大きく飛び越していて。 だからそんな野暮な事を聞くのはやめにした。 その場は確かに二人して泣いてれば良かったんだけど…… 実際、問題はそれだけじゃ片付かない。 「とにかく、まずはティキの現状をどうにかしないと」 「雪那さんがオーナーになってくれればいいのではないのですかぁ?」 「えーっと、それは……」 メーカーがこんな事態を想定していない以上、おいそれとそれを認めて言い訳もなく。 なにより僕はそれまで自分の中にあるオタク気質というものを一切否定して暮らしていたのだ。だから、『武装神姫を所有する』=オタクという図式に自分が組み込まれることに躊躇し、しぶっていた。 いや、そんな事言ってる場合じゃないのは解ってるけど……だって、ねえ? オタクである事を隠している人になら、あるいは共感してもらえるかなぁ……と。 「ダメなのですかぁ?」 「えーと、どうだろう?」 とりあえずそこは曖昧にしておこう。 先にメーカー側に問い合わせる事から始める。 ただの先送りだけど。 で、メーカーに問い合わせた所、それこそこのケースは異常事態らしいと判明。 その時僕は無知にして当然知らなかった訳だけど、一時期ネット上で流れていた音声ファイルの『眠り続ける神姫』の話。アレの更に先を行く事態とか何とか。 で、なんだか解らないうちに、話がでかくなっていって。電話の向こうでは上を下への大騒ぎ。 結局どうなったのか解らないうちに、とりあえず、断定的に所有権の譲渡が行われてしまった。 理解できたのは、ティキが『死ななかった』件については他言無用との事と、データの収集のために出来るだけ普通に神姫に接して欲しいという事。そして定期的な検診を受ける事を言い含められたという事実。 なんだか本当に大事じゃないか? でも、当のティキといえば、 「これから宜しくなのですよぉ♪」 こんな調子だった。 そんなこんなで。 ともかくティキのオーナーになった僕は少しでも彼女を理解したいと、そんなわけだ。 それを少しでも簡単にと(愚かにも)思った僕は、親父の書斎へと向かう。 ……冷静に考えれば、こんな考え方だから僕は振られたのだろうか? それはそれとして、親父はマメな人物でもあったから、もしかしたらPCに痕跡ぐらいは残ってるだろうと当たりを付け起動させる。 果たしてそこには『日記』と記されたフォルダが残されていた。 ……痕跡どころじゃねーよ。そのものだよ。 ともあれ、僕はそのファイルを開く。 ○月○日 この日俺はついに武装神姫に手を出してしまった。 こんな事家族に言ったらもしかしたら妻は離婚を言い出すかもしれない。 息子に言ったなら、俺は軽蔑され、冷たい視線を受ける事になるだろう。 でも、お義父さんの神姫を見ていたら、どうしようもなく、たまらなく羨ましくなったのだ。それはもう仕方が無い事なのだ。 俺は食事、団欒の後、なるべく自然に書斎へ戻ると、逸る心を抑えられずすぐさま神姫のパッケージに手をつけた。 MMS TYPE CAT『猫爪』。 俺は焦りながらも慎重に、とにかく家族に気付かれない様、細心の注意を払って開けてゆく。 そこには夢にまで見た神姫が、眠るようにいた。 俺は早速神姫を起動させる。 それには様々なプロセスを必要とするが、今ここで書いても意味は無い、な。 とにかく一通りの手順を踏み、彼女は起動した。 始めに何かしら説明を話し始め、その後彼女はおもむろに俺に言った。 「固体名と、オーナー呼称を登録してほしいですよぉ♪」 ……この子は何で歌うように喋るのか? お義父さんの所の娘達は普通に話していたのに??? 「どうしたのですかぁ?」 にっこりと笑って俺を見る。と言うよりそんなものを登録するという事実をすっかり忘れていた。 「……あーすまん。チョット待ってくれ。考える。」 「ハイですぅ♪」 目の前の神姫はそういうとその場でぺたりと座った。 あーかわいいなぁ。……いや、そうじゃない、考えよう。 どうせなら変わったのが良いな。でも名前は変すぎても可哀想だ。と、俺が頭を捻っている間も彼女は俺をジッと見つめている。……愛らしいなあ。 はた、とそこで思いつく。 「オーナー呼称の方、先でも良いかな? 『旦那さん』と呼んでくれ」 「『旦那さん』ですねぇ♪ ……登録したですよぉ♪」 そういうと彼女は「旦那さん、旦那さんですぅ☆」と何度も言って机の上をピョンピョンと跳ね回った。 そんな彼女を見ていると微笑ましくなる。……正直に言えば、ニヤニヤしている自分を自覚する。 そんな彼女の様子を目で追いながら、俺は名前を考えていた。 「ダメ大人じゃねーかよ!!」 僕はただただ、PCの前で突っ伏した。なんだか日記も妙に読まれる事を意識した書き方だし。 ……なんだか読むのが億劫になってきたな。続き読むのよそうかな。 でも、それでも戦慄した一つの事実。 ……確実に僕にもこの親父の血が流れていると実感した事。 つまり、最初はなし崩しだったとしても、今はそうじゃないって事。 終える / もどる / つづく!
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堅物な武人気質のストラーフMk2型神姫が嫌う臆病と偶然の二つが、彼等を敗北から救ったと言っていい。今回の対戦相手である九頭龍に神姫バトルなので当然ながら直接的にではなく九頭龍が乗り移るアーク型神姫ルルに睨まれた瞬間、黒野白太は虎に飛び掛かられた様な恐怖に足が竦み反射的に両腕で身体を抱いた結果、槍の穂先から身を守る事が出来た。 無事からは程遠く左胸の前にあった左腕とその装甲を破壊されたがそれでも彼等は運命の女神に感謝すべきだろう。臆病と偶然に助けられたストラーフMk2型神姫イシュタルの喝に目を覚ました黒野白太は痛む腕を引き摺って一対のナイフを振るい槍の猛攻を耐え忍ぶ。普段通りでナイフで槍を挟みテコの原理で破壊しようとした黒野白太であったがナイフを突き出した途端、槍が縮む。否、実際に槍が縮むはずも無くそれは錯覚であったがそう思ってしまう程に素早く槍はナイフの鋏から抜け出して、九頭龍とその神姫が僅かに一歩下がったかと思えば今度は槍が伸びる、実際には踏み込んでからの猛烈な刺突を喰らわせた。特に武術を習っているわけでもない黒野白太がそれを防げてたのは神姫バトルによる経験則とイシュタルの補助があったからに他ならない。それでも勢いだけは殺し切れず黒野白太は突き飛ばされ今まで何十もの武器を破壊してナイフの刃に大きな罅が走った。 黒野白太とイシュタルの残る武器はもう一本のナイフとハンドガンとグレネードランチャー、拳とリアパーツの副腕とそこに収まる大剣の六つ。その中でランチャーでは発射前に隙があり、ハンドガンでは威力に心許なく、接近戦で対応出来る武器はナイフと拳と副腕と大剣。だがどちらで戦ってもジリ貧であるのは目に見えていた彼等はハンドガンによる牽制の後、グレネードランチャーを自分の足元へ向けた発射した。爆風に巻き込まれる事を恐れた九頭龍とルルが足を止めた隙に黒野白太とイシュタルは爆風を踏み台に大きく飛翔してその場から飛び去った。背を向けて逃げ出した彼等を目の当たりにしながらも追い掛けようと身を屈めたルルであったが、九頭龍が制止させた。 『何故です、スピードはストラーフMk2型(相手)よりもアーク型(私達)が上回っています。』 『問題は相手が空中に逃げた事だ。私の槍術は所詮、地に足を着けた人間の技。空中で槍を振るうのは本分ではない。』 勿論、彼等は空中で槍を振るった事が全く無いわけではない、空中で槍を振るい敵を打ち倒した事も何度かある。ただ地上と空中とでは槍捌きの精度に大きな差があり強敵を仕留めるのであれば全力を出せる道を選ぶ。物言わずともその意思を理解したルルは何も言わず普段通り戦闘はマスターに任せ自分は敵の動きの探知へと努め始めた。 …。 …。 …。 偶然とは二度三度と連続して続くものであるのだと黒野白太は自分の人生観を改めざる得ない状況に陥っていた。今回のバトルステージには半壊した廃墟が建て並んでおり身を隠して激しく動悸する脳細胞を落ち着かせる時間は十分に保持出来た。 息を整えつつ段々と頭が冷やしていると、罪悪感と言う余計なものが何処からともなく頭の中に入り込んで来る。先制の一撃、これもまた偶然によって防げたからよかったものの、もしその偶然が無ければ致命的な失敗となっていただろう。堅物で普段から口五月蠅いイシュタルからそれについての叱責が来ないのも余計に恐怖感が煽られている。敵にも味方にも追い詰められ内心が冷え始めた黒野白太の頭の中に直接イシュタルの声が届いた。 『思ったよりも左腕の損傷が少ない。装甲に守られたな。』 2040年、最新技術である神姫ライドシステムにより神姫の持ち主は疑似的に神姫と一体化出来るようになった。持ち主と一体化した状態の神姫は二重人格に近く神姫だけでなく持ち主の精神もまた武装神姫として神姫バトルに臨む事が出来る。だから今バトルフィールドには二体の武装神姫しかいないが実際には黒野白太とイシュタル、九頭龍とルルの四人が居るのである。今の声もそれが理由であり、彼女の声は独り言ではなく自分の中に居るもう一人の自分(持ち主)へ向けられたものだ。 状況を考えて今は叱る暇が無いのだろう、冷静に現状を伝えてくれたイシュタルに感謝しつつ黒野白太は勝つ為の案を練る。柔軟な思考が要る時では黒野白太が、単純な思考が要る時ではイシュタルが、それが彼等の役割分担であった。 『バズーカの弾は?』 『残り二発、予備を含めて五発。』 『よし、じゃあ今からバズーカで袋小路を造ってくれ。弾は一発だけ残して、バレないように、出来るだけ早く。』 『そこに奴等を追い込むのか?』 『いや、追い込まれるのは僕達だ。』 『? 了解した、マスター。』 疑問には思っても今までに何度も相手を破ってきたその事実からイシュタルは黒野白太の指示に従う。こういった作業用はデジタルな思考を持つ神姫に任せた方がいいと思っている黒野白太は対戦相手の動きの探知にのみ集中力を注ぐ。 徘徊して直ぐに廃墟と廃墟の隙間を発見したイシュタルはで廃墟の一部を破壊し一方の出口を瓦礫で埋めた。相手を撹乱させる為に直ぐにその場を離れさらにまた別の場所でグレネード弾を放ち廃墟を壊す。今度は一部を壊した廃墟の中に入って身を潜めているとそこにやってきた対戦相手の武装神姫の姿を目で確認する。向こうはライフルやレーザーによる狙撃を警戒しているのか壁に背を預けながらも注意力を散漫させている。先の戦いで既に相手のレーダーを破壊していたのも幸運だっただろう。 彼等に見つからないようにする為に音を立てないよう注意を払いながらも僅かに移動しグレネードランチャーのエネルギーを溜めて放つ。フルチャージされたグレネード弾は通常よりも遥かに飛距離を伸ばし今居る場所から離れた場所で爆発し轟音を立てる。当然ながらそれに気付いた九頭龍とルルは誘き寄せる為の罠かもしれないと、より一層に注意を深めながらもその場に向かう。 廃墟から出たイシュタルは最初に見つけた廃墟の隙間に戻り再びフルチャージさせたグレネード弾を放つ。今度は飛距離の為では無く威力増強の為に放ち穿たれた廃墟には大きな風穴が開いて落ちた瓦礫が隙間に降り積もる。さらに一発のグレネード弾でもう片方の廃墟を壊し一方の出口を塞ぐ瓦礫の山をより高いものとして不完全ながらも袋小路を完成させた。 『出来たぞ。それで、後は何をすればいい?』 『これで十分、後は… 黒野白太の作戦を聞かされた時イシュタルは明らかに目に見えて顔を顰めた。聞かされた作戦というのは作戦と呼ぶには余りにも幼稚で杜撰な一か八かの博打に満ちたものであったからだ。堅物な武人気質が多く自分自身に誇りを持っている者が多いストラーフMk2型にとって偶然に頼る事は非常に心苦しい物がある。だがその事をについて今責めても仕方が無い、バトルフィールドは神聖な場所、責めるのは現実世界でだ。 一心同体となっている所為か、それとも永年の付き合いの所為か、イシュタルの持ち主はケセラケセラと笑っている。これについても後で、と彼女の頭の中で説教リストに追加しただ一言彼が待っているだろう言葉を言い切る。 『了解した、マスター。』 賽は投げられた。 …。 …。 …。 『これは明らかに罠です、マスター。』 『分かっている。』 最後のグレネード弾の炸裂音の源へと来た九頭龍とルルが見たのは廃墟の隙間に一方の出口を瓦礫で塞いで造られた袋小路。そしてその瓦礫の背中を預けるように立ちグレネードランチャーの筒先を残った出口へ向けて油断無く構えている黒野白太とイシュタルの武装神姫。 袋小路の中であればグレネード弾を避ける動作は大きく制限される、その恩恵を得る為に自らの退路も断った決死の姿勢。もし九頭龍とルルが槍以外の武装、銃火器を武装していたらわざわざ袋小路入らずとも狙撃する事が出来ただろう。それが無い今、彼等が黒野白太とイシュタルを打ち倒すには相手の造った土俵に乗り込んで近付くしかない。 『既に向こうは一撃を喰らっています、このままタイムアップを待てば私達の勝ちです。』 『…。』 だがわざわざ罠に踏み込む必要も無い、神姫バトルのルールの一つに時間制限による勝敗の判定というものがある。判定は中立のジャッジマシンが行い互いの武装神姫の被害を計算し被害が少ない方が勝者というものだ。ルルの言う通り既に一撃を貰っている向こうが自分からは何もしてこないのであればこちら側は時間切れを待てばいい。それを九頭龍は充分に理解している、理解しているのだがゆっくりと自らの武装の唯一である相棒の槍に手を添える。 『分かっている。分かっているが私が目指すのは槍による勝利。根気での勝利では無い。』 『…。』 『相手が剣を振ろうとも、銃を撃とうとも、罠を張ろうとも、この槍一本で戦い勝利する。それが私の矜持だ。』 『…そうですか。』 『理解してくれとは言わん。矜持などと格好付けても所詮は私の我儘だからな。』 『いえ、ならばその我儘を支えるのが神姫の務め。何処までも御伴します、マスター。』 『最高速度まで加速しろ!!今ここで決着を付けるぞ!』 『了解!』 ルルがクラウチングスタートの姿勢を取り地面を蹴ると自動行動(レールアクション)を発動させ全身が青味の光を帯びる。アーク型神姫元来の機動性能と合わさって一個の弾丸となって迫り来る神姫を黒野白太は冷静に観察していた。接近戦が主体である今の装備で接近戦で勝てない相手を相手にしてしまった時に黒野白太が採った戦法は攻撃の反撃(クロスカウンター)。どんな達人でも攻撃の瞬間に防御は出来ない、その瞬間を捕らえる自信が黒野白太にはあった。 今回の対戦相手は神姫バトルのプレイヤーにしては珍しく攻撃時は武装神姫から神姫の持ち主である九頭竜の人格が表に出る。その瞬間、武装神姫から先制攻撃を喰らう要因となった『虎に飛び掛かられた様な恐怖』を感じ取る事が出来るのだ。これは恐らく武術の達人特有の相手を気で呑むという技術なのだろうがその辺りに黒野白太にとってはどうでもよく。兎に角、人間(アナログ)の感覚で気を感じ取った後、神姫(デジタル)に身体の支配権を全て委ねてからの攻撃の反撃(クロスカウンター)を狙う。自分自身が恐怖に敏感な臆病な人間である事を逆手に取る、それが黒野白太が建てた計画の概要であった。 『…来たっ!』 九頭龍が強く表に出る瞬間、心が凍りつくような感覚を感じ取り身体の支配権を全てイシュタルに移し替える。グレネード弾を放とうとした瞬間、弾丸の様な速度を維持したまま九頭龍は持っていた槍を投げた。空気抵抗を受け辛い形状をしている槍は棒状のライフル弾と見紛うような速度と正確性でイシュタルへと襲い掛かる。イシュタルは黒野白太から伝えられた通りにグレネード弾を真後ろに放った。彼等から背を向けて逃げた時と同様に爆風を踏み台にしながらも彼女もまたレールアクションを発動させ今度は前へと飛ぶ。爆風による追い風でアーク型神姫をも凌駕する程の最高速度を叩き出しつつもは背中の大剣に手を添えた。 それよりも先に投げられた槍がイシュタルを貫いたが加速の為に僅かに身体を屈めていた御蔭で心臓(コア)よりも僅かに上の位置へと突き刺さる。何よりも苦しめられた槍という武器の特性に助けられながらも彼女は九頭龍との交差の瞬間に抜刀する。驚いた九頭龍が予備の槍を取り出そうとするが、もう遅い。 安全装置が働き九頭龍の弾丸の勢いが急停止し一方で決着が付いた事を理解したイシュタルは足を止めて大剣をリアパーツへ納刀する。チンと金属音の囀りと共に左腕から左脇腹が心臓(コア)を巻き込んで切り飛ばされ崩れ落ちる九頭龍にジャッジマシンが判決(コール)を下す。 「勝者(ウィナー)・イシュタル」 急所を狙い損ねた槍が彼女から引き抜かれ、カランカランと持ち主の無念を代弁するかのような侘しい音を響かせた。 …。 …。 …。 「最後の刹那、勝負を急ぎ槍を投げたのが私の敗因だったか。」 「貴方程の腕前であれば加速したとは言え神姫の剣を捌くのは訳が無かったでしょうね。」 「ははは、槍一本で来た私が、私自身を信じられなかったという事か。まだまだ修練が足りんな。」 「何はともあれ今回の試合、僕達の勝利です。貰うものは貰っていきますよ。」 「あぁ、持っていけ。授業料と思えば安いものだ。」 「それでは失礼して。」 九頭龍が所持する神姫ポイントから規定されている最大分までを自分のIDへと移した後、黒野白太はその場を後にした。向かう先は彼が所持するストラーフMk2型神姫イシュタルが待つ場所、そこに居た彼女は目に見えて不機嫌だった。黒野白太にその理由が分からなかったわけではないが人の感情を逆撫でするのが大好きな彼は敢えて惚けた振りをして尋ねる。 「なーに不機嫌してるのさ。勝負には勝ったでしょ?」 「あぁ、勝ったとも。だが勝てばいいと言うものでもないだろう。」 「そりゃそうだけどさ。もしかして僕の作戦が駄目だった?」 「それもある、あんな一か八かの穴だらけな作戦、二度と御免だ。だがそれよりも私が言いたいのは――――。」 イシュタルは青い目で黒野白太を睨む、これ以上の事は察しろ、と目で訴えかけているのだろう。流石にこれ以上は惚けた振りをしてしまえばLove度が下がるかもしれないので彼女の不機嫌の理由を言い当てた。 「最初の戦闘の時、僕が相手にビビって動かなくなっちゃった事でしょ?」 「分かっているじゃないか! 運が良かったから不様を晒す事は無かったものの、もしそうでなければ私達はあの一瞬で負けていたんだぞ!」 「正直な感想だけど、神姫越しにあんな殺気出せる人がいるとは思わなかった。本気で殺されると思ったよ。」 「ええい、言い訳をするな、言い訳を! 兎に角だ、この事はマスターの胸に深く刻んで欲しい!」 ピンポンパンポンと気の抜けた音の後にゲームセンターが閉店時間を迎えた事を報せるアナウンスが響き渡る。 「おっと、もうこんな時間か。帰らなくちゃね」 「家に着いたら先ず今日の戦いの反省だ。特に最後の戦いのは繰り返さないようにきっちり対策を取るぞ。」 「はいはい。」 神姫バトルに対しどこまでも厳格で貪欲なイシュタルに対し黒野白太はやる気が有るのか無いのか判別し辛い応答を返す。こうして武装紳士とその武装神姫の隔離病棟(ゲームセンター)での一日は終わる。そしてまた明日彼等は神姫バトルに精を出すのだろう、只ひたすら神姫バトルの上達を目指して。
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「Quel est dîner d aujourd hui ? 」 助手席から、声が聞こえた。 「Es gibt den aiready Reis. So bilde ich die Teeessiggurke. Ich bin so müde. 」 車を運転しながら、ドイツ語で応えてやる。 「확실히.오늘은, 큰 일이었지요.」 えっと…。 「何だ。今のは」 「韓国語ですよ。マスター。『今日は大変でしたね』って言ったんです」 助手席の下の方、クレードルの上でくつろぐ神姫が微笑みを浮かべる。 そう。彼女は武装神姫の侍型MMS。名前は『椿』だ。彼女は、そのAIの性能を発揮して、俺の仕事の秘書として、通訳兼語学指導者として、そして、一人暮らしの俺の話相手として、色々な場面でその能力を発揮してくれる。今や、俺の生活には欠かすことのできないパートナーだ。 ------------------------------------------------------------------- 必要に迫られて、彼女を手に入れた。あ、そこの君、「玩具を『彼女』呼ばわりなんて、コイツ、あぶねー奴なんじゃないの」とか思っただろ。ま、いいや。俺の場合、ネットで神姫を使った外国語学習の事例を見たのがキッカケとなって、神姫の購入を思い至ったんだ。俺の仕事はー、ま、言ってみればブローカー。右から左、必要とする人がいれは、品物を売って歩く仕事だ。その時、たまたまツテがあって、海外との取引の話を持ちかけられていたんだ。 「通訳の役にたつかも」 そう思って、神姫の購入を思い至った。 まだ人を雇えるほど儲けているわけではなかったし、通訳を探すツテもなかった。 正直、購入するときは、ちょっと恥ずかしかったけどね。 まぁ、通常の女の子向けの神姫より、武装神姫の方がハードルが低かった、と、そういうこと。 そして、同時に驚きもした。 神姫について知ってはいた。それでも、起動するまでは「人間の音声認識をして、勝手に動くことのできる人形だろ」くらいにしか思っていなかった。でも。 「はじめまして。私は侍型MMS、TYPE『紅緒』です。あなたが私のマスターですか」 起動直後の第一声だ。今でも覚えている。その動作、声の抑揚にー、そして表情。何ひとつ人間と変わらないその仕草を。 俺は彼女には、人間の女性を扱うのと同じように接することにした。 当初、彼女はバトルのために購入されたのではない、ということに少々戸惑った様子だった。しかし、自分の能力が求められている、というシュチュエーションは、彼女のやる気を引き出すのに十分だったようだ。その翌日、サードパーティの語学パックを使って、彼女は、英語、フランス語、ドイツ語、中国語(もちろん広東語と北京語の二種類は押さえている)やスペイン語など二十カ国語ほどをあっという間にマスターした。 彼女の存在は、取引先にも好評だった。ま、中には、テーブルの上で通訳をする彼女をいきなりワシ掴みにするお客もいたりして、彼女がその後しばらくの間ふて腐れる、という事態もあったりしたけどね。 その後、仕事も覚えてもらって、スケジュール管理や経理にと色々手伝ってくれている。 で、だ。 最近、そんな彼女の元気がない。 「そういえばさ」 しばらく続いた沈黙を破って声をかけた。 「名前の由来、解ったよ」 「はい、シガーソケットのことですか」 彼女が座るクレードルは、車内でも使えるようにシガーソケットから電源を供給されている。メーンの機能はバッテリーの充電だけど、その気になれば、PDAを使って彼女が一日の最後に行う、デフラグとバックアップをすることができる。 「昔ー、まだタバコが一般的だったころの名残だってさ。昔は、そこに発熱コイルを使ったライターがキャップ代わりに入っていたんだって。それが、だんだん車内で使う電気機器の電源供給源になって、その用途が一般化して、えーと、その一方で禁煙運動が進んで、タバコを吸う人はほとんどいなくなったけど、名残でそのまま残ってしまったんだと」 「へぇ」 「だから、ソケットの横にある小物入れって、実は吸って短くなったタバコを捨てるトレーだったらしいよ」 「はい、そうでしたか…」 なんだか、気乗りしない返事が帰ってくる。 うーん、そろそろ切り出してみるか。 「で、椿」 彼女の名前を優しく呼んでやる。 「最近、元気がないけど、どうしたのさ」 「いえ…そんなことは、ない、です。ええ。」 「歯切れが悪いなぁ。ここのトコの君の行動は変なんじゃないかな。ぼーっとしていることが多い」 彼女と暮らすようになってから、一応、神姫のAIのおおざっぱな概要や、ユーザーが抱えるトラブルなんかを調べていた。彼女たちは、人間と同様、環境によるストレスやなんかを感じる、らしい。俺は起動直後、購入目的を聞いて、戸惑いを見せた彼女の様子を思い出していた。彼女は武装神姫だ。武装神姫の存在目的はー。 「バトル、してみないか」 投げかけた。 「えっ」 彼女の顔が明るくなる。よほど嬉しいのか、その瞬間、彼女はその身体をぐるりとこちらへ向けた。 「でも…。マスターはバトルをなさらないのでしょう。私のために、そんな時間とお金を割くなんて無理をされなくても…」 と逡巡する。 やれやれ。 「じゃぁ、こう考えるんだ。君は、ウチの唯一の社員だ。さて、社長であるボクは、よく働いてくれる社員のためにも福利厚生を考えなきゃいけない。そうだろ?」 うーん、人間の女性だったら、ここで手でも握らなきゃいけないトコだ。 取り合えす、片手を使って指先で彼女の頭をなでてやる。こわばっていた彼女の身体から、力が抜けた。 週末がやってきた。 俺たちは近場の神姫センター登録をしている店を訪れた。 バトルは大きく分けて二種類ある。ひとつは神姫BMA(武装神姫バトル管理協会)によるオフィシャルなもの、これは実際に闘うリアルバトルだ。もうひとつは、いわゆるバーチャルバトル。こちらはまだBMAの公認こそは得られていないものの、装備の破損などを嫌がるユーザーの支持も多く、ほとんどのセンターでバーチャルの筐体を用意している。バーチャルのみでも全国ランキングなどが付けられ、準オフィシャルみたいな形で大会が開催されている。さすがに初めてのバトルなので、椿と相談して今回はバーチャルバトルに挑戦することにしていた。 さすがに人が多い。対戦台の前でバトルの指示を出すプレイヤーだけではなく、ギャラリーも胸ポケットに入れたそれぞれの神姫と一緒にモニターで対戦の様子を観戦している。大画面ではブースターと羽を付けた猫型が地面すれすれを滑るように駆け抜けていく姿が映されていた。だめだ。あんなのとやったら、間違いなく向こうのワンサイドゲームで終わっちゃうよ。 俺は周囲の神姫とマスターたちを観察してみた。ありゃ、マスターと神姫でお揃いの服着てやがる。あっちの神姫は眼帯しているけど、ファッションだよね、きっと。コッチには頭の上に神姫を載せてる奴もいるぞ。えー、シッポをパタパタさせている犬型の君。マスターの頭上でポテチの袋を振り回すのは止めなさい。 とか心の中でツッコミを入れていて、ハタと気づいた。 「どうやって対戦するんだ」 よく考えたら、昔の対戦ゲームのように一人プレイをしていて、そこに乱入とか、そういうスタイルではなさそうだ。店員を捕まえて聞いてみることにした。 店長なのだろうか、妙に落ち着きのあるその男性は、「なにこのオッサン」などという態度はおくびにも出さず、丁寧に対応してくれた。彼女を購入した店とは大違いだ。今度から、ひいきにさせてもらおう。 そして、今、俺は対戦相手だった神姫のオーナーと談笑しているところだ。 バトル?あぁ、負けちゃった。 しょうがないでしょ、マスターも当の神姫も初めてなんだし。ただ、一方的に打ち負かされるでもなく、それなりに内容のあるバトルだったことは、椿にも良い経験になったろうと思う。 「でも、銃の扱いが上手かったですね。あなたの戦法だったんですか」 学生だろうか、温厚そうな表情の持ち主だ。彼の神姫は騎士型。最近神姫を購入し、バトルを始めたそうだ。店長は、俺と同じく、初心者でなおかつバトルの相性がよい騎士型神姫を持つ彼を紹介してくれた。「僕も、初めての時は店長さんに対戦相手を紹介してもらったんです」そう言って、彼は快く対戦に応じてくれた。 缶コーヒーを飲みつつ、彼の問いに答えた。 「ああ、こっちが有利に立ち会える状況になるように、そのための呼び水に使おうと思ったんだ。銃でダメージを与えられるとは思っていなかったよ」 テーブルの上では椿が、さっきまで鬼のような剣戟を打ち合っていた、彼の神姫と楽しそうに話している。神姫仲間がいなかったことも、彼女のストレスの一因になっていたのだろうか、と思う。 「マスター」 と、椿が振り返った。 「はいな」 「あの…、彼女にメアドを教えても構いませんか」 「あ、僕たちは構いませんよ」 「そういうこと、いいよ。椿」 彼女は、相手の神姫と手を取り合い、きゃぁきゃぁと騒ぎ始めた。 対戦相手と別れた俺たちは、店内の一角にある神姫コーナーを見て回っていた。そして解ったのは、想像以上に神姫のグッズというのは種類がある、ということだった。武装にはじまり、家具(神姫サイズで実際に機能する家電もある)、バイクや車などの乗り物(どこで乗るんだ)など、など。服なんかは、メーカー品のほかに、個人が制作した品の委託販売もしているようだ。やっぱり一品ものは手間がかかっているだけあり、値も張るが出来は見事なものだった。そんななかから、俺は、袴の和装セットを購入することに決めた。椿は辞退しようとした。でも。 「そういえば、今まで君は僕に尽くしてくれたけど、僕は君になにもしてあげてないしね。たまにはプレゼントくらい贈らせてくれよ」 彼女は消え入りそうな声で、「ありがとうございます、マスター」と言うと、シャツの胸ポケットの中に引っ込んでしまった。 レジを打ってくれたのは、先刻、神姫とペアルックを決めていた少女だった。委託販売している服は彼女の手によるものらしい。梱包しながら、商品の説明をしてくれた、曰く「リアルバトルにも使えるだけの対弾、対刃、対爆性能がありますから」とかなんとか。なんだか、スゴイことになってるんだね。 「で、さ。スーツをオーダーしたいのだけど、いいかな」 「マスター」 椿がポケットから顔を出す。 「この娘、仕事を手伝ってくれているんだ。取引先相手に素体姿のままってのもどうかと思ってね」 「仕事を手伝うって、どんなことををしてるんですか」 質問を投げかけたのは、少女の犬型神姫だ。やけに礼儀正しい。 「ホラ、椿」 「ええ、マスターのお仕事で取引先が海外になることがあるんです。その時の通訳を…」 おずおずと答える。 「え、それじゃぁ、外国に行ったこともあるの」 「はい」 「今度、是非そのときのお話を聞かせてもらいたいわね」 少女の言葉に、犬型神姫も大きくうなずいていた。 「なんだか、今日は盛りだくさんだったね。まだ、お昼を回ったばかりだけど」 「はい」 胸元から聞こえる声の通りが良い。 「また、バトルしにあの店に行こう。次の休みにでも」 「え、スーツの仕上がりはまだ先…」 「いいんだ。俺も面白かったし、やっぱ勝ってみたいじゃん。それに、君も友達ができた方が楽しいでしょ」 「でも、本当によろしいのですか」 「ああ。君の浮かない顔は見たくないし。…今の君はすごく生き生きとしてる。そんな君と一緒にいることが嬉しいんだよ」 胸元の生地がギュッと掴まれる。彼女が俺の胸に顔を埋めて抱きついているのが見えた。 「Я люблю вас, оригинал.」 「また、俺の知らない言葉を…」 おしまい。
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{かくれんぼ(前編)} 「あぁ~あダリーぜ」 悪態つきながらリビングで身体をダルそうに動かす俺がいる。 何故こんなダルいか、というと、今日はあいつ等達のメンテナンスをやるからだ。 最近はバトルの回数が多く、色々と損傷箇所を見つけたり身体能力の更新をチェックをしないといけない。 さらに付け加えて言うならば俺の違法改造武器をフル装備してバトルをするもんだから経験値データがハンパなく蓄積データとしてあるため、メンテナンスでクリーンアップしたり断片化されたデータも最適化しないといけないのだ。 正直に言うと…萎える…。 このメンテナンスの仕事の量は大量過ぎるし俺には四人の神姫がいる。 GRADIUSは厳密に言うと神姫じゃないので数に入れない、どちらかというと武器の方だ。 だからその分はアンジェラス達もより早くメンテナンスが終わって楽という事。 「…そろそろ行くか」 煙草を鉄で出来た吸殻入れにブチ込み、自分の部屋に向かって歩く。 準備はとっくに用意しといたので、後はあいつ等がクレイドルに座ってスタンバイしといてくれれば万事O・Kー。 まぁそこからはダルいメンテナンスが始まるんだけどね…。 はぁ~、溜息が止まらない。 ドアノブに右手で握り回す。 「お~い。お前等いるか~?」 ドアを開けながら自分の部屋にズカズカと入った瞬間、俺が見た光景に更なる溜息を吐かせる原因が出来た。 その原因とは言うと…。 「…はぁ~…イネェ~…」 そう、クレイドルに座ってる奴は一人も居なかったのだ。 マジで?と思いながら俺は椅子に座りノートパソコンの近くに置かれている煙草とジッポを手に取り、煙草に火を付けて煙草を吸う。 そしてまず最初の一言。 「なんでイネェ~んだよ」 空っぽになっているクレイドルを睨みつけながら言う俺。 今日はツいてないみたいだ。 でもまぁここは悪運に強い俺に期待しよう。 必ず奴等を見つけ出しメンテナンスしてヤる。 じゃねーと姉貴に怒られるのは俺だからだ。 一応、これもバイトの一環でやらせられてることだがらな。 ほんでもって、ちゃんとメンテナンスしてないと姉貴のクソ長ったらしいぃ~説教時間をクらう訳。 イヤだ、そんなのは絶対にイヤだ。 <? Some lack?> 「ん?あぁ、グラディウスか。全くもって不足だよ」 武装神姫が四人程な。 両刃剣を持ちながら来たグラディウスは徐にクレイドルの方を見て、次に俺を見ながら。 <Was it maintenance?> 「そ。あいつ等のメンテナンスをヤろうと思ってだんだが、ご覧の通り。バックレやがった」 <Now, there is a problem. Master is useless> 「『駄目』だしする程じゃないけど…俺が怒られるのは勘弁ならねぇから探し出すまでよ」 <I cooperate right now> 「サンキュー♪でもまずお前からメンテナンスした方が早いから今のうちにやっとこうぜ」 <consented!> 両刃剣を一番目のクレイドルの隣に置き、クレイドルに寝そべるグラディウス。 そんじゃあ、メンテナンス開始しますか。 ノートパソコンのキーを叩き次々にグラディウスのデータを調べ上げる。 ふむ、どうやらグラディウスには戦闘以外でも色々と蓄積されたデータがあるみたいだ。 それに人型に変形している時間帯が最近多くなってみたいだな。 まぁあの四つのペンダントの内、唯一人型に変形できて自立行動が出来る武器だからな。 カタカタとキーを叩きメンテナンスをしていく。 「………こんなもんだろ。はい、終わったぜー」 <Thank you> クレイドルから降り両刃剣を拾うグラディウス。 これでグラディウスのメンテナンスは終わった。 にしてもこのクレイドル、普通に一般で売られてるクレイドルとは少し違う。 なんでこんな所に『No Step』て書かれているんだよ。 そんなに危ない場所なのか? でもまぁ番号はあいつ等の順番通りだからいいとして…。 「なんで裏に注意書きが書いてあるかなぁ~。本当は英語で警告て、書かれてるんだけど」 <…?> 「いや何でもない。そんじゃあ奴等を捕まえに行きますか」 <Yes!> グラディウスと共に四人の武装神姫を探索するため立ち上がった。 …にしても気になる。 あのクレイドルはVIS社の支給品だ。 姉貴には必ず充電する時とか、メンテナンスする時はこのクレイドルじゃないといけない、と言われたし…なんだか気にクわない。 あの警告に書かれている内容はあまりにも厳密過ぎるし、話すと長くなるからまた今度。 今はア・イ・ツ・等のかくれんぼに付き合わないといけないからな!
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人物設定 金矢利道 SOS技術研究所に勤める研究員 二人の神姫をこよなく愛している マッドサイエンティスト気質で、バトルに参加したいとマリンが言ったとたん武装を即座に用意するなど、行動力溢れる人 ただし、基本的に意地のいい人ではない アニタ(ストラーフ型) 明るく活発。マスターにちょっとしたイタズラやわがままを言い、それを許してもらえるのがうれしくて仕方が無い子。 要求のレベルは非常に低く、確実に実現できるものをチョイスしている 自分のわがままや生意気さを自覚していて、それを許してもらうことに愛を感じている 裏闘技場での経験がトラウマになっており、最近夜中うなされている マリン(アーンヴァル型) 生真面目で大人しい。マリンのお姉さん的存在。口数が少なく、何を考えているか分かりづらいが、たいしたことは考えていない 自分の要求を口に出せないが、マスターがアニタにしてあげたことをすぐに自分にもしてくれることに幸福感を持っている その性格が災いして、利道にいじられている 武装設定 標準装備 タクティカル・エッジ 大型ナイフ 知り合いの研ぎ師に無理矢理作らせたもので、このサイズとしては異様な切れ味を持つ 2mm厚の装甲板を貫通可能 ターミネーター・マチェット 大型実体剣 小さいが、日本刀と同じ手法で作られており、すさまじい威力を持つ 直径5mmの鉄棒をたやすく両断する マリン専用バトルコスチューム 人工筋肉製の強化外骨格の上に、防弾防刃耐熱繊維で作られたメイド服を着込んだもの どちらの素材も、SOS技術研究所で開発された最新鋭の技術を持って作られている メイド服のスカートの中に多種多様な武器を隠しており、まさに「メイドさんのスカートのなかは宇宙と繋がってる」といった感じ ポケットと内部がつながっており、そこから武器を出す ちなみに、人工筋肉製外骨格の形状の都合上、通常の神姫より肉感的なスタイルとなっている 更なる秘密機能が隠されているとのうわさも… マリン専用武装(一部) リボルバー(S W M10型)×2 オートでなくリボルバーなのはただの趣味 クイック・ローダーではなく、手で装填する ちなみにこれとナイフだけはエプロンのポケットの中に納められている ショットガン(SPAS-12型)×2 これまた趣味で選んだショットガン メイド服とショットガンほど似合う組み合わせは無いとのことで、主力武器としている サブマシンガン(UZI9mmSMG型)×2 趣味で選んだサブマシンガン ちなみに、神姫用弾薬の規格は(基本的に)統一されているのでリボルバーと同じ弾が使える 無反動砲(パンツァーファウスト型)×4 スカートの中に納めるために、小型化されたパンツァーファウスト SOS技術研究所のオリジナル作品 小型化の影響で威力射程は劣化しているが、その分数を揃えることで対応している スカートの中から出てくる様はある種卑猥である 威力が劣化しているとはいえ、15mmの装甲を貫通する能力がある 射程も、基本的に近接戦闘になりやすい武装神姫の戦闘では問題にならなかった ちなみに、小型化によって軽量化された恩恵か、使い勝手は非常に良好で、後に少数生産であるが一般販売されている 用語 SOS技術研究所 元は人工筋肉関連の技術研究を行っていた研究所 現在は、神姫用人工筋肉のライセンスなどでウハウハ 金があるので、大分趣味に偏った研究に走っている それでも十分な成果を上げている ちなみに、SOSとは研究所を立ち上げたメンバー 所長の相馬、主席研究員の尾田、出資者の柴崎 それぞれの頭文字を取ったものである
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ネオン煌めく繁華街、その禍々しい光の届かない片隅、雑踏の一角にソレはいた。 いや、それらと言うべきだろう。ソレは何体となく群集している。 それらは武装神姫なのだが、其のどれもに表情が無く、虚ろな目で佇んでいる。 ある者は完全武装、ある者は私服姿、またある者は……半壊していて。 腕が無かったり、頭部外装が剥げていたり、それは見るものに嫌悪感を与える。 ソレは神姫であるという以外に統一感のない群集。 その姿は墓場から蘇ったゾンビの群れを連想させる。 そしてソレをビルの屋上から見下ろす二つの影。 「大量ですね……報酬タップリと貰えそうです」 それは少女と、武装神姫。 「お気楽だね。アレ全部相手にしなきゃいけないんだよ?」 少女は髪型をツインテールにしており、それが月明かりの下、夜風に流される姿は神秘的とも言える。 キリっと美しい顔立ちと相まって、ソレが少女に幻想的なイメージを浮かび上がらせる。 「マルコなら出来ます。私が保証しますから」 肩に座る神姫にそう言われた少女が切り返す。 「ふぅ、これもお仕事だもんね。……それじゃいきますかっ!」 そう言うが早いか、少女の肩よりマルコと呼ばれた神姫が跳躍する。 アーンヴァル型だが身に付けているのは通常のウィングではなく、4枚の真っ白な翼。 不浄なる穢れを滅するため、天使が舞い降りる…… ねここの飼い方・劇場版 ~二章~ 「……と云う訳で各地で続発している武装神姫暴走事件についてお伝えしました」 居間のTVから映し出されるワイドショーが、淡々と例の出来事を伝えている。 「いや大変ですね、花野さん。 しかしまだ事故が発生しているのは電脳空間だけで、直接暴走していないのは幸いと申しましょうか」 コメンテーターがいかにもとって付けたような知識で語ってる……ああいうのみてると無性にツッコミたくてたまらなく。 「そうですね、武装神姫は15cmサイズとはいえ武装した場合は大変強力です。 特にリアルリーグ用などはその際たる物でしょう。万一そのような事があった場合、死傷者が出る可能性がありますからね。 電脳空間だけで事故が発生するのは、ある意味不幸中の幸いと言えるでしょう」 私はリモコンでピッとTVの電源を落とす。 「何が不幸中の幸いなのよ……」 この間のエルゴの一件でも一歩間違えば二人の神姫の意識が消えていたところなのに。 各地で発生している暴走事件の中には筐体の電源を抜いて強制リセットを掛けた結果、 神姫のデータが破損し修復不能になった例もある、と聞いている。 所詮玩具だから壊れても……などという考え方があるのが私には苛立たしい。 「みさにゃん、なでなで」 と、いつの間にかねここが私の目の前にいて私の頭をナデナデしてくれている。 「ん、ありがとねここ。でもどうしたの急に?」 ねここは珍しく目線をキョロキョロさせると、きゅっと口を噤むようにして 「だって……みさにゃん怖い顔してるの、それに悲しそう……」 「大丈夫よねここ、ねここが居れば私は幸せだから、ね?」 ねここの髪をくしゃっと撫で返してあげる。ねここはほにゃ~っと柔らかい笑顔を作ってくれて。 「姉さん、ねここ、話が付きました。直ぐに迎えが来るそうです……って何してるんですかっ」 「いや、あはははは……」 雪乃ちゃんに話をつけてもらったと言うのは、彼女の実家の黒姫家との間の事。 曲がりなりにも当事者の端くれになってしまっている私たち。 そのためこのまま見知らぬフリを決め込むのは三人にとって不本意だった。 でも私たち自身で出来ることはあまりに少ない、それで雪乃ちゃんの実家である黒姫家の助力を乞おうと思ったのだ。 と言う訳で、現在彦左衛門のおじいさんと、孫娘の鈴乃さんと対面中、と言う事に。 「それで、我々にも真相究明のための助力をして欲しい、という訳か」 重々しく彦左衛門氏が語る。 「はい、このまま放置しておく事なんて出来ません。私達に出来ることは微々たる物かもしれませんが、それでも」 しばしの沈黙の後 「……一部情報筋から流れてきた話なんじゃがな、鶴畑家で爆発事故があったらしいんじゃ」 「? それと何の関係が……まさか」 貫禄たっぷりに頷き 「そうじゃ、事故があったと言うのは武装神姫専用棟。何やら試験を行っていたらしいが、暴走の原因はいまだ不明。 機体が跡形も無くなっているのでな、真相究明は困難らしい。」 「でも偶然の可能性というのは……?」 「そうかもしれん。だが時期を考えると何らかの関係がある可能性も高かろう。 それに鶴畑が己のメンツのために実機の暴走事故を隠蔽しているのだとすれば、マスコミの報道にも筋が通る」 その言葉に私は違和感を覚える。 マスコミの報道では、現実空間では暴走事故は起きていないんじゃ……まさか。 「そう、そのまさかじゃよ。他にも現実空間での暴走事故や、命令不服従になっての失踪が出ておる。 特に失踪は多いらしいがな。ユーザー側の勝手なプログラム改造が原因になっての行方不明、と処理しておるから殆ど表立たん。 それらを隠蔽してるのはイメージダウンを防ぎたいのと、芋蔓式に自己の醜態を暴かれるのを避けたいためじゃろう」 「そんな事が……」 そこまで事情が深いとは思いもしなかった訳で。 「いずれにせよ他ならぬ貴方たちの頼みだ。無碍には出来まい、全力で協力させて頂く。 其れに我々の事業にも少なからぬ影響があるようでな、どの道避けられんよ。 ……鈴乃、お前が指揮を執って真相究明に当たれ。月組を使って構わん」 「御意に……それでは」 一礼すると流れるような動きで退室していく鈴乃さん。軽く微笑んでいた気もするけれど、トラブル好きなのかしらね…… そして家に戻ったわけなのだけれども、家のPCには引っ切り無しに鈴乃さんからの最新情報が送られてくる。 被害者の神姫の種類から暴走時の装備、マスターの住所録なんかまで……相変わらず凄いと言うかなんというか。 ざっと流し読みしていく私だけれども、解析は向こうの方でやってくれているらしいので私は助言程度の事しか現状やることがない。 ねここたちの方は、何かあった場合の実戦要員として待機してて欲しいとの事。 二人の実力はファーストの下位ランカー辺りならば比べても然程見劣りしないし、 黒姫家は切り札的な武装神姫が鈴乃さんのアガサ位しかいないらしく、強い神姫の助力は必須だとの事らしい。 でも現実で暴走する神姫をどうやって止めるかが問題よね。 電脳空間の時は頭を粉砕すればよかった。でも現実の場合そんな事をしたらその神姫を『殺して』しまう。 バックアップから復元は出来るかもしれないが、それは同じようで違う。 データを丸ごと新規ボディに移設するだけならともかく、バックアップはデータを取った時点での人格であり、それ以上でもそれ以下でもない。 其れは確かに、他人から見れば同じと言えるかもしれない。でも神姫自身にとっては? そう思いつつ、私も二人のバックアップはきっちり取っているわけだけど……そこまで完全に割り切れるほど私は達観していない。 と、思考が逸れちゃったね。とにかくそっちは何かしらの対処法を考えておく事にしよう。 「……そういえば、エルゴの方はどうなってるかしら」 ふと思い出す。現状も気になるし、あそこはセカンド級の常連も数多く、何か面白い情報が掴めるかもしれない。 まだ時間もあるし、行ってみる事にしてみようかな。 「………うわぁ」 思わず声を出してしまう私。 エルゴはすっかり寂れていた。 事件があった場所だから当然なのかもしれないが、対戦筐体は全て封印され、2Fの人影はあまり無い。 1Fの方もそれに影響されてか、週末の午後だと言うのにガラガラで、ジェニーが何時ものクレードル姿で暇そうにしていました。 「こんにちわ、ジェニーちゃん。マスターは?」 「あ、こんにちはです風見さん。店長は今奥に……呼びます?」 「うん、お願い。ちょっと話したい事もあるし……」 私が少し申し訳なさそうに言うと、察してくれたのかな。直ぐ来てもらうよう連絡していた。 やがて奥から店長さんが姿を現す。 「やぁ風見さん、いらっしゃい」 ……無精髭が伸びて、しかも見るからに憔悴気味で。目にもクマが出来てて……ま、しょうがないよね。 「こんにちわマスター。早速なんですが、ちょっとお時間頂けますか?」 と私が切り出すと、店長さんも察した様で 「……わかった、それじゃ奥で話を聞こうか。コーヒー位ご馳走するよ」 「それで、アレから何か判りましたか?」 私たちは店の奥で向かい合って話していた。私の頭と肩でねここと雪乃ちゃんが静かに話を傍聴している。 「うん、まぁ多少はね……でもこれを聞いたら君達は後戻りできなくなるかもしれないよ、それでもいいのかい?」 店長の声は優しく、説得というより教え子を心配する教師の雰囲気を思わせて。 「えぇ……既に覚悟は出来ています。それに知った以上何もせず傍観なんてしてられません」 私の言葉に同調して頷く、ねここと雪乃ちゃん。その瞳は真っ直ぐ前を見据えていて。 「……それに、幾つか独自のルートで掴んだ話があります。聞いて貰えますか?」 その言葉に反応するかのように、眼つきが鋭くなる店長。何時もの人当たりの良い笑顔ではなく、猛禽類を思わせる鋭い目だ。 「わかった、情報交換と行こう。じゃあ風見さんの話を聞こうか」 私は彦左衛門氏から聞いた鶴畑家に纏わる顛末を、店長さんに公開した。 店長さんは熱心に聞き入っていて、私の話が終わると 「そうか、そんな裏の理由が。だから一般には伏せられてたのか……」 「知ってたんですか、神姫の現実空間での暴走事故?」 店長さんは、話すかどうか迷う感じでちょっと困った表情をした後 「まぁね。詳細は企業秘密だけど、こっちも何かと色々顔が利くものでね。ある程度は知ってたよ。 それに、異常を起こした神姫を運び込んでくるお客さんも結構いるからね。でもそうか、メーカーに報告しても揉み消されてたのか」 「えぇ……私の今掴んでいる情報はこんな所です。マスターの方はどんな感じですか?」 店長は指をアゴにかけるようにして少し考えた後 「そうだね、俺の掴んでる情報も似たようなモンだったな。マスコミの方はアレだったが……」 そうですか、とちょっとがっくりする私、と更に 「いや、これは俺の予測なんだが……HOSが一枚絡んでるんじゃないかと思う」 「HOSがですか?」 「ああ、少なくとも俺の所に運び込まれた神姫は全員がHOSを使用していた。 今じゃ使ってるユーザーは膨大だからな、偶然の可能性もあるが。 それにHOSの発売と、暴走が報告されるようになった時期が符合している。状況証拠としては悪くないじゃないか?」 「……そうですね、それについては参考データがあるので、後で調査してみます。でもHOSからはウィルスは検出されてませんよね?」 「確かに今の所はな。だが従来のスキャンに引っ掛からないタイプのかもしれないし、トロイ型で一定条件下でのみ発生するタイプかもしれん。 両者の混合型だった場合コイツは厄介だぞ。例えHOSをデリートしても残ってる可能性が高い」 そこまで話して思い当たった。 「ちょっと待って下さい。もしHOSがそうだった場合、開発元が絡んでる可能性はありませんか?」 「そりゃそうだ。偶然未知のウィルスが混入した可能性も捨てきれないが、可能性は五分五分だろうな」 私はかぶりを振って 「だから開発元が絡んでいた場合、その開発の大元である鶴畑まで被害に遭うというのはどういう事なのか、という事です」 店長さんはあぁ、と思わず声を荒げて。 「つまりその場合、開発者自らの利益のためにソレを仕掛けた、ってことになるか。鶴畑の為ではなく。 でもわからんなぁ、何で傘下の者が自分トコの首を絞めるんだ?」 「何らかの怨み……でしょうかね? 何にせよ其処を当たってみる価値はありそうですね。私の方で探ってみます」 「わかった、俺の方でも出来る限り調べておくよ……何にせよ無理しちゃだめだからな。か弱い女の子なんだし」 ポリポリと鼻をかきながらそう心配してくれる店長さん。結構シャイなのかな。 「大丈夫ですよ。私空手やってますから」 店長さんは冗談と受け取ったようで 「でもほら、通信教育だろ?」 「一応、段持ってますよ?」 「……へー……」 ……なんですかその目は。 続く トップへ戻る
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『元気でやっているか? 風邪とかは引いてないか?』 「大丈夫、父さん。心配しすぎだよ」 帰ってきた後、夕飯の作り途中、家に電話がかかってきた。 それは久しぶりに父さんからだった。 月に一回ぐらいにこうやってかかってくる。心配性な父さんだ。 『いーや、高校生でも、螢斗はまだまだ子どもなんだ。息子を心配するのは父親として当然だぞ』 「ちゃんと、やってるよ。……そうそう、ついこの間から、長倉家にさ、武装神姫が住むことになったのだけど。父さんは許してくれる?」 『ああ、あの動く可愛い人形か。同僚の娘さんも持っているらしいからな。……父さんは別にいいと思うぞ』 「そう、よかった」 この家の、本来の家主に反対されたらどうしようかと思っていた。まあ、反対したとしても、無理矢理押し切る気でもいたのだけど。 『ちなみに、どういう子なんだい? 猫型とか犬型とかかい?』 「……詳しいね、父さん。しかも基準がペット方向のだし」 『ち、違うぞ! ただ、ちょっと、そういう先入観があるだけで。……詳しいのも、お客さんを色々見ていると、神姫を連れている子や、いい大人が年甲斐もなく愛でているのを見られるだけだぞ。本当だぞ!……父さんは変な目で見ているわけではないぞ!』 欲求不満なのか、我が父親は。 言わなくてもいいことをペラペラと喋る。 「わかった、わかった。そう言う事にしとくよ」 『そう言う事とはなんだ、そう言う事とは。信じてないだろ、父さんを』 「信じまーす」 『うぅ、まったく……ブツブツ……』 父さんも元気そうにやっているみたいだ。いつも通りの父さんがいて、ホッとしている。少しイジりすぎたかもしれないけど。 「神姫は山猫型、アーティル型の子なんだ。名前はシオンってつけてる」 『ふーん、アーティルタイプは熱血で元気な子らしいじゃないか。名前はシオン……シオン。もしかして……シオンを漢字で書いたら、“詩”と“音”って書くんじゃないか?』 「……うん」 父さんは一呼吸置いてから、また電話口から声が聞こえた。 息を飲む音も一緒に。 『……すまんな、一人にさせてしまっていて』 「なんで謝ってるの? 家を空けてるのはいつものことじゃない……」 父さんが突然謝り出した理由はなんとなくわかっている。 だけど僕は、はぐらかした。 『だがな、実際螢斗は寂しいんだろ? お前の母親“詩乃”と、詩乃の母さん、祖母の“海音”義母さん。わざわざ、文字をとってくる必要がない。螢斗自身はわかっているだろ?』 「違うってそういうのじゃない。ただの偶然だよ、偶然」 『しかしだな……』 そうだよね。父さんはそう思うよね。でも、あれは本当に偶然だった。 名前を考えたら自然に頭の中に浮かんできた。漢字名は後で気付いた。 ただ、それだけのこと。 『お前は詩乃が亡くなった時も、義母さんが亡くなった時も、号泣だったじゃないか。詩乃が亡くなった時は、三日三晩、小さいお前が俺の胸で泣いてたし。義母さんが亡くなった時は葬式の翌日、久しぶりに帰ってきて、布団を干す時にさ、おまえの枕がすごい濡れていたのを覚えてるぞ』 「……家族が亡くなったら、誰だって泣くさ」 余計なことばかり覚えてるんだから、父さんは。 僕が以外に涙脆いなんて知っているくせに。涙は枯れないものだから、どんどん溢れてくるものだから。 『無理をすれば、父さんは家に帰れることだって……』 「――それはやめてよ。父さんは結構偉い立場なんだからさ。社会人として責任が色々あるでしょ。……それにさ、今は……」 「螢斗さーん!……鍋が、鍋が吹きこぼれそうです!!」 廊下の奥、キッチンの方からシオンの危機感迫る声が聞こえ始めた。 「ちょっと待ってて、父さん。……コンロのスイッチを止める方に捻るんだ!! 身体全体で掴め!!」 「と、とりゃー!……やった! 治まりましたよ、螢斗さん!」 ふぅ、これでよし。一安心だ。 「よくやった! そのままにしといて!…………もしもし、父さん?」 『大変そうだ……な。電話越しに聞こえたぞ』 「料理の最中だったから。シオンにまかせてたからね」 『ははは、武装神姫の、あの小さい身体に料理番は荷が重そうだな』 「でも、よくやってくれてるよ。……あのさ、こうやってシオンと暮らしてるとさ、少し父さんの気持ちがわかるんだ」 『うん?』 「父親の気分っていうのかな。シオンは普通の神姫と少し違うところがあってさ、そういうのがあってもさ、それが可愛いっていうか。手のかかる子ほど可愛いというかさ」 『でも、お前はあまり手がかからなかったな。詩乃が亡くなってからとか、義母さんが亡くなって、ますますな』 「……えっと、そうだった?」 そんな風に意識したことはなかったような。一人暮らしをするって決めた時はしっかりしようと思ったけどさ。 『そうだったんだよ。……親が亡くなるなんて、子どもは暗くなるのが普通なんだが、お前は、率先的に義母さんの手伝いしてたらしいじゃないか。父さんは知ってるんだぞ』 「う、」 『同僚のお子さんなんか、母親がいてもなにも手伝わない事が多いらしい。お前の話をすると、絶対俺の周りが羨ましがるんだぞ。一人で偉すぎるってな。その度に父さんは鼻が高くなってしまうぞ』 「そ、そう」 職場では僕の事が周りに筒抜けらしい。僕自身は当然の事だと思うのだけど。 『お前が持ち主だったら、神姫のシオンが幸せだな。お前はしっかりしている。どんな子でも導いていけるさ。子どもは手が掛かろうが、手が掛かなかろうが、いずれは成長していくもんだ。人間だろうが神姫だろうが、それは同じだ』 「あ、……そうか……そういことか」 この前の君島さんの話、成長という意味はこういう事を指しているのか。 シオンだけではない。僕も成長する必要があるということかもしれない。でも、なにを……? 『ん、今度はどうした?』 「いや、なんでもない。そろそろ切らないとな、なんて」 『おお、そういえばそうだな。いつまでも、電話を占領するのも悪いし』 「……ほどほどにね。あと、父さん……」 『なんだ』 「いつも、ありがとうね。僕を心配してくれて」 『ッ!…………あったりめーだ、バカタレー。我が息子よ、またなー。……ッグス……ウウ」 ……プツ、ツーツーツー。 僕は受話器を置いた。 父さん、最後泣いてたし。涙脆いのは父さんの遺伝だな、絶対。 「螢斗さん、どうかしましたか」 「……え、どうしてそんなこと聞くの?」 リビングに戻ってみると、シオンがなぜか僕に訪ねてきた。 いや、電話してただけなのだけど。 「顔が嬉しそうですよ。電話の相手と、よほど楽しいお話をしたんですか?」 「ああ、そういうこと……うん、そうだよ。シオンのことをね、少々」 「えぇ!? 私ってやっぱり変ですか? そうですよね。戦えない神姫なんて変ですよね。自分でもそう思います」 「なに、勝手に勘違いしてるの!? 違うって!」 シオンを宥めるのに時間を使っていたら、すっかり鍋は定温にまで下がっていた。 ―――― 休日の日、天気は快晴。 朝の10時いつものゲームセンター前。 「よーし、皆のもの、全員いるかねー?」 「全員って……君島さん、あなたがみんなと初対面ですよね? まず、自己紹介してくださいよ」 「これは失敬。長倉君のアルバイトの上司、君島 縁だ。それ以上でも、それ以下でもない」 「……螢斗さん。君島さんって変な人ですね」 最後のポツリと感想を言ったのはミスズだ。 今この場には、僕とシオン、淳平とミスズ、君島さんだ。 淳平は絶対朝起きられないと思ったので、僕が家に電話して淳平の母親に頼み、ブン殴ってもらって起こしてあげた。 今日は残念なことに霧静さんはいない。 霧静さんは家の用事で今日は出られないとのこと。アリエもまだ神姫ショップの店番で忙しいらしいし。 休日はよく人が来ると言っていた。どっちにしろ、あの店長さんを見たら客は逃げると思うんだけどな。 それと、君島さんの神姫のリンレイも見当たらない。だけど、気配はしないけど絶対身近にいる。忍者みたいに姿を消せるみたいだから、油断はできない。 「はい、はい、はーい! お姉さん、質問でーす!」 淳平が、学校に教育実習生として来た先生に、質問を投げかける生徒みたいな構図が連想されるテンションで手を挙げている。 「はい、そこのキミ!……えっと、名は?」 「伊野坂 淳平。螢斗の親友でっす。この子はアーンヴァル型のミスズっす」 「じゃあ、改めて。……はい! 伊野坂君、なんだね?」 「姉御って呼んでいいっすか? ついでに彼氏はいますか?」 「……マスタァ~」 ああ、ミスズが凍えるような目で淳平を見始めた。よくあることだ。だけど、今日は止められそうにもない。 「うむ、許す。……彼氏がいるかどうかは……キミのご想像にまかせるとしよう」 「うぉー、ミステリアスな雰囲気っすね、さすがは姉御! 痺れるっす!」 キミたち、ホントに初対面なの!? 「はー、綺麗なお人ですね……」 シオンが君島さんに見惚れている。それでいて驚きの口調も出す。 ――いや、騙されるんじゃない。 確かに今日の君島さんは、いつもの、バイトの時の姿と違く見える。 君島さんの服装は黒のジャケット、中にシャツ。細い足にはデニムパンツ、靴はヒールと大人だからこそできる服装。 僕よりも幾分も長身でスタイルも良い。顔にはブルーグレーのサングラスをしていて、バイト中いつもぞんざいに結っている長い髪はツヤがあるように、綺麗に腰元まで流している。 道の通りを歩く十人中十人が、男女関係なく、かなりの確率で振り返るであろう容姿を今この人は表わしているからだ。 今も道行く人が何人か振り返っているのがわかる。 だけど……だけどだ。 僕は知っている。 この人は荒唐無稽なことを平気でやってのける。バイト中でも、数々の暴挙を引き起こしているのに客からも反感を受けず、仕事もクビにもされない超人だ。 実際に謎だらけの人なのだけど……なぜか、僕にとって信頼できる人でもある。 ……不本意だけど。 「――拙者は主殿の神姫リンレイでござります。よろしくいたく候」 「あれ? いつからそこにいたんですか! さっきまでいなかった筈なのに……」 ミスズが口に手をやって驚愕している。 君島さんの肩からさっきまでいなかったリンレイがいつのまにかいたからだ。 本当、いなかった筈なのにどこから来てるのかな。 「すっげー! 忍者だ、忍者も出た。姉御もめっちゃ美人だし、なんでバイトの先輩で、こんな美人がいるって言ってくれなかったんだよ!? これから、螢斗のコンビニに毎日通う事にするぜ!」 「迷惑だよ……ハァ……」 ガクガクと僕の首を揺らす淳平。そして、来て早々疲れている僕。 なんでこの人といると、こんなに精神的にも疲れるんだろう。 ……いや、淳平と併せてるせいだ。絶対そうだ。 「えー、今日はお日柄もよく、シオン君の矯正バトル日和になったわけなのだが」 「そんなことより、いいから、授業とやらを始めましょうよ」 「ふぅ、まったく、ゆとりというものを知らんなキミは。昔は……」 「はいはい、もう入りましょう」 もう付き合ってられない。 シオンの為を思って呼んだのだけど、人選を間違えたのかな僕は。 「綺麗な方なのに、面白いお人ですね」 シオンは本気でそう思っているみたい。 面白いは褒め言葉なのか? いや、シオンにとっては悪口じゃないだろう。 純真すぎるのも問題だな。 「悲しいな、悲しいよ。……さて、リンレイ、伊野坂君とミスズ君も行くぞ」 「承知でござります」 「へへ、俺もお供しまっすー!」 「マスタァー!! あとで覚えていてください……ぐぎぎ……」 このメンバーで本当に大丈夫なのだろうか。 ―――― 「ふむふむ、ゲーセンの筐体はこうなっていて……ほう、このくらい迫力で……ステージもなかなかリアル……うーむ」 君島さんが感嘆の声を呟く。他の対戦者、神姫たちが実際にバトルしてる筐体の画面をゆっくりと眺めている。 「君島さん、そろそろ、シオンのバトル恐怖症を治す方法を教えてくださいよ」 「まあ、待て。……んーと…………」 筐体から離れ、君島さんはサングラスを外してポケットに差してから、周りを見渡している。 「主殿、あそこにでござります」 肩に乗っかっているリンレイがある一角を指差す。 なんだろうか? 僕はてっきり、君島さんとリンレイがバトルで直接教えてくれると思っていたのだけど。 「おっ…………そこのチンピラ! ちょっとこっちに来い!」 えっ! ちょっと、何やってるの? リンレイが指差す方向、壁を背にして立っていた、いかにもワルそうな男。 君島さんはその人を見つけるや否や、突然挑発し始めた。 「……あ~? おいおい、いきなりなんだ、ネーちゃん。オレのことをチンピラっつってさ、舐めてんのか、あぁん!!」 (こ、怖!) 君島さんと違う種類の、それでいて同じようなサングラスをかけている男性がこっちに向かって来た。 ジャラジャラと首にネックレスをいくつもかけていて、格好も着崩している風貌だ。 「キミみたいな、チンピラ風情がゲーセンにいると、ここの空気が汚れる。さっさと、出て行ってくれたまえ」 「ちょ、ちょっと。君島さん! いきなりどうしたんですか!?」 「そうっすよ、姉御。危ないっすよ」 「……君島さん、謝ったほうがいいです!」 僕もミスズも、さすがに淳平もたじろいでいる。 僕も怖いが、怖くて震えているシオンは胸ポケットに身体を潜らせる。 とにかく、君島さんを謝らせないと。周りの客も空気も凍りついているじゃないか。 「ひでぇな、ネーちゃん。俺も神姫バトルを楽しみたい一市民なんだぜ、そこは許せよ。お前もそう思うだろ、なぁ?」 チンピラさんが自分の神姫に話しかけた。 見ればその男性の肩、膝に手を置いていて行儀よく神姫が座っている。 左目の方に眼帯をしているのにその上からオーナーと同じようにサングラスを掛けている。 「…………」 なにも喋らない。 軍帽を被っていてその下から、アーティル型のボディよりも薄いピンク色の髪の毛が見える。 あれは……武装神姫、戦車型のムルメルティアだ。 それより、なんで、サングラスを掛けている率が多いんだ。流行っているのか? 「こちらはそんなものは知らん。さっさと消えてくれたまえ」 しかし、どうしたんだ、君島さんは。なにかこういう人に恨みでもあるのか。 普段よりも気性が荒すぎる。 「おーおー、怖え~。美人なネーちゃんなのにな、もったいない。……はぁーあ、ムカつくぜ」 「で、どうするのだ? 出ていくのか? 出ていかないのか?」 「いやだ、ね……どうしても出ていかせたいっつうなら、やっぱここはコレだろ?」 クイッと指を筐体に指す。神姫バトルでけりを付けるってことなのか。 「被害者な俺自身がふざけた気分になっちまうが、警察沙汰にする気もないんでな。ここは神姫バトルで手を打つってぇーのはどうだい?」 「ふむ。わかった、よかろう」 ふぅ、よかった。君島さんと忍者神姫のリンレイなら、神姫バトルで負けるイメージはないからな。 これで安心でき―― 「――ただし、やるのはこの子だ」 「えっ!…………うぇ!?」 君島さんに突然腕を引き寄せられた。 僕の目の前に厳つい男性のチンピラさんが。 「あ? このチビがか……てめーはやんねえのか?」 「あいにくと、私は武装神姫を持っていない」 「ええっ!! リンレイが――……ムググ……」 「リンレイがいるじゃないですか」と言おうとしたら、口を手で塞がれた。 淳平とミスズにも、何も言うなと目で黙らしている。 なんで、どうして? 目線を動かしても、君島さんの身辺どこにもさっきまでいたリンレイの姿が見当たらない。また姿を消しているのか。 (いいから、言うとおりに) 耳元、小声でそう言われた。 一体何を考えているんだこの人は。 「はぁ? てめーはなんでここにいるんだよ!?……はぁ、まあいい。そこのチビが代わりにやるってことだろ? 俺は別にいいぜ。そのチビの神姫が勝ったら俺は素直に出ていくさ。ただし、負けたら……」 首を掻っ切るジェスチャーをする向こうのチンピラさん。 え、本気で? 人間を神姫バトルで……。 「ふん、冗談だ……ただ、俺のダチが裏でやばい仕事してて、そこで急遽人手が必要なんだと。俺は面倒でやりたくないんだが……」 「それを手伝えっていうことですか」 「そうだ。そっちが負けたら、それが罰ゲームっつうことにしよう。俺は喧嘩売られた側だぜ? それくらいの権利はあんだろ。もしもだ、そういう仕事でとちったら社会的にな……わかんだろ?」 「……最悪陽の目をもう浴びれなくなるってこと……です……か?」 「賢いチビだ。まあ、そういうこったな」 そうだよね。 もちろん、僕たちが負けても君島さんが代わりにするんだよね。 そうなんだよね? 僕は君島さんを伺ってみる。 (キミがやるんだ) 目がそう語っている。 うっそ、なんで!? 「ちょっ、ちょっと、待っててください!! 君島さん、こっちに」 「……ふむ、よかろう」 今度は僕の方が君島さんを引っ張っていく。 ゲームセンターの隅の方、目のつかない方に連れていく。 「あのアマは、いつもあんな感じなのか?」 「さ、さぁー、姉御はさっき初めて会いましたのでよくは……あはは……早く戻ってこいよ~」 「なにかあれば、マスターは私が守ります。ヌヌヌ……」 その場にはイラついたチンピラさんと気まずそうな淳平、睨みつけるミスズが取り残されてしまった。 ごめん、すぐ戻るから。 前へ 次へ
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